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『ふくしまからきた子』をつくって

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『ふくしまからきた子』をつくって


2011年の3.11以降、子どもを描く絵描きとして自分にできること、それを考え形にしていく作業をこの一年かけてやってきました。

事故後、私は自分の持ちうるツールをすべて使って、微力かもしれませんがこの事態に一石を投じたいと思いました。


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もちろん私は原発の専門家ではありません。

このテーマで絵本を作ったとしても、そのスタイルは

「原発とは」を説く科学絵本でもなければ、「こんなに酷い被害がある」という惨事を解明していくジャーナリズム的な絵本でもないと思いました。

いち絵本作家に、そんなことを空々しく描けるとは到底思えなかったからです。


わからないものは今もわからないままです。



でも、唯一私にもわかること、

それは3.11以降、被災地の子どもたちが今まで通りの生活を送ることができなくなったという事実。

そして、その中で大きなストレスを抱えながらも、小さな人生がそれぞれの場所で続いているという事実です。


私はこの福島の子どもの心に焦点を当てることにしました。

3.11後の子どもたちの心の変化がわかったとは口が裂けても言えないけれど、その変化に思いを巡らせ、寄り添う努力はできると思いました。

舞台に選んだのはかつて同じ核の被害に遭った広島市です。


かわいい子どもを描けるという自負があります。


かわいい子どもを本当にかわいく描いて、


大人の読み手であれば「この子たちがこの先も声をあげて笑い、無限の夢を語り合い、元気に外を駆け回ることができる社会に」

と、切に願うような


子どもの読み手であれば、同じ子どもとして主人公の心に寄り添い、共感し、自分の未来を考えるきっかけになる


そんな絵本にできたらと制作に励みました。



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短い取材旅行ではありましたが、初めて自分でアポを取り、取材許可を得て、知り合いのいない福島へ行きました。

自分の足で現地へ立ち、避難を余儀なくされた小学校や、未だ線量の高いと言われている小学校を訪ね、貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。先入観を持って行って、お会いした方を傷つけたかもしれません。発見も多い旅でしたが、反省も多く胸に残りました。


この絵本は父、松本猛との共著です。

担当編集者のHさまにもずいぶん意見を出していただきました。

取材旅行も三人で。何度も打ち合わせを重ね、慎重に作り上げました。

最後は作り手みんなが納得する作品になったと思います。


実は、この業界でそれなりに地位のある父と絵本を作る事は、ずっと避けてきたことでした。

絵本作家だった祖母いわさきちひろの七光りに加え、父のおかげで絵本を出せていると後ろ指さされる事が嫌だったからです。


けれど『ふくしまからきた子』は、父と作らなければと強く思った初めての作品になりました。


いわさきちひろのベトナムの子どもを描いた名作『戦火のなかの子どもたち』を祖母と一緒に作った経験のある父からたくさんのことを吸収したかったからです。


父と『ふくしま~』の絵本の構想を練った時点で、出版社も『戦火~』を出した岩崎書店さんにお願いする事に決めました。


この二つの決断は吉と出たように思います。

大手ではこの手の絵本の出版には消極的です。

作り手も、出版理念がきちんとある場所から大事に出してもらいたい。

そういう点で、岩崎書店さんは最良の出版社でした。

作っていく中で、以前よりは父娘関係もよくなったように思います(笑)


いち市民として、いち作家として私の力は本当に小さなものです。

小さな作家が「子ども」という無限の可能性を秘めた大きな存在を描く。これは果てしない挑戦です。


今作でこの無謀な挑戦を支えてくださった、岩崎書店さん、担当編集者のH様、共著の父 松本猛、取材協力頂いた福島のみなさま、広島のみなさま、方言指導の竹迫祐子さま、福岡篤紀さま、推薦文を書いて下さったスタジオジブリの高畑勲監督、最愛の家族、そしていつも応援してくださるすべての方に心の底からお礼を言いたいです。


本当にありがとうございました。


これからも絵描きとして、この見果てぬ大きな『子ども』という存在に挑戦し続けていきます。どうかあたたかく見守っていてください。


絵本作家 松本春野

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